府立大学・市立大学の「廃止」―大阪公立大学の発足にあたって

2022年4月1日    

   大阪府立大学問題を考える会   

大阪市立大学の統合問題を考える会

はじめに

 本年4月1日をもって、新しく大阪公立大学が発足し、大阪府立大学と大阪市立大学が「廃止」されることになりました。大阪府大と大阪市大は、創立以来140年の歴史、「自由の学風」「建学の精神」の伝統をもち、大阪の知の拠点″として、経済・文化・科学技術の発展に貢献してきました。戦後は公立総合大学として、比較的安い授業料で高等教育を担い、その役割を立派に果たしてきました。

 私たちは、大阪府立大学と大阪市立大学が、それぞれ府民、市民から親しまれる公立総合大学として存続し、歴史と伝統を積み重ね、発展することを願って運動してきました。

このたびの新大学発足にあたり、10年越しの経過をふりかえり、府立大学と市立大学の「統合」をどうみるか、「新大学基本構想」の主な問題点を考察し、今後の取組みについて考えます。

「二重行政の廃止」を理由に、維新政治が「統合」押し付け、大学当局が追従

 まず、府大と市大「統合」は、両大学の内発的要求からはじまったものではありません。

  2011年11月の知事・市長ダブル選挙で発足した維新の府・市政が、「二重行政の廃止」をかかげて府市統合本部を発足させ、そのもとで、学外者ばかりの「新大学構想会議」が「統合」を提言し、両大学の運営に介入を始めたのです。これに対して、大学関係者や卒業生、名誉教授、府民・市民から「拙速な統合に憂慮・反対」の声が噴出し、同年11月の大阪市会で「統合関連議案」は否決され、「統合」は一旦延期されます。15年5月の大阪市住民投票でも、「二重行政の解消」を理由に大阪市を廃止・分割する「都構想」が否決され、橋下徹市長は政界を引退しました。このとき、大学「統合」は中止されるべきでした。

 ところが、15年11月の知事・市長ダブル選挙で、維新の府・市政が継続するや、「都構想」も「大学統合」も息を吹き返し、こんどは副首都推進本部のもとで「少子高齢化、大学間競争の激化への対応」と称して「統合」が強行されます。府・市議会も、維新・公明が賛成多数で「統合関連議案」を可決します。19年4月には、まず両大学法人を統合し、公立大学法人大阪(理事長・西沢良記・元市立大学長)が発足。大学法人は、それまでの経過をふまえて「新大学基本構想」をまとめ、8月の副首都推進本部会議に報告。さらに、府・市・大学法人の3者が検討を重ね、翌20年1月に「新大学基本構想」を決定します。2月の府・市議会も「統合関連議案」を可決。同10月、大学法人が政府文部科学省に「新大学設置認可申請」を提出。翌21年8月27日、文科省が認可を公表。 

 こうして、22年4月、両大学の教職員スタッフやキャンパス・設備などを、現行のまま引き継いで、新しく大阪公立大学(学長・辰巳砂昌弘・府立大学長)が発足し、両大学は「廃止」されることになったのです。

背景に、予算削減・「大学の自治」破壊・「産学官連携」の大学政策が

 府大・市大の「統合」の背景に、政府がすすめる、大学予算の削減、「大学の自治」の弱体化、「産学官連携」の大学づくりの政策があります。

 維新の府・市政は、この政策を先取りし、「大阪に2つの公立大学はいらない」と大学予算を削減、「学長を選ぶのは市長」(橋下徹市長・当時)と「大学の自治」を攻撃し、教職員・学生・院生ら大学関係者の民主的討議を封じ込め、両大学「統合」を強行してきました。 

 府と市の大学予算は、法人化以降、毎年削減され、2016年度の予算では、府大が05年比75%の98億円に(法人化以降32億円減、国の交付金を下回る)、市大が06年比72%の104億円(法人化以降41億円減)にまで削減され、教職員も大きく減らされました。そのため、両大学は、運営費確保のため産学官連携を強め、外部資金(民間企業などからの研究資金)獲得に追われています。

 さらに、市立大学では、16年度から防衛省委託研究(防毒マスクの研究)に応募、受託し、3年間で1億1700万円の資金提供を受け、さらに19年度からの3年間も防衛省研究を継続しています。教育・研究を歪め、平和憲法に反する軍事研究は、即刻中止するべきです。

 いま、日本の学術研究水準の低下が大問題になっています。「国立大学の法人化は失敗だった」(山際寿一・前日本学術会議会長)という声があがるなど、予算の削減、「選択と集中」を柱とする国の大学政策は行き詰まっています。新大学も、このような路線をたどるなら、先行きは予断を許さないでしょう。

 新大学基本構想−スマートシティ戦略(万博・カジノ・IR誘致事業)に参画

 「新大学基本構想」(20年7月、一部変更)は、本来の使命「教育」「研究」「社会貢献」に加え、新たに「都市シンクタンク」「技術インキュベーション」の機能を備え、都市問題解決や産業力強化に貢献する新大学をめざすとし、「スマートシティ」や「Society5.0(IoT、ロボット、AI等の先端技術を活用した未来社会)」を大きく取り上げ、そのため、行政機関や企業との連携を義務付け、森之宮キャンパスには「2つの新機能の拠点(府・市・法人によるプラットホーム、データマネージメントセンター)」を配置するとしています。そして、両大学の重複する学部・学科を「融合(統廃合)」し、予算と人材を重点分野に「集中」する、ガバナンスを強化して統合に取り組む、としています。

 いま、維新の府・市政は、2度目の大阪市住民投票(20年11月)で「大阪市廃止・都構想」が否決されたにもかかわらず、無理やり「府市一体化条例」(2021年4月)をつくり、「スマートシティ戦略」として、夢洲への万博、カジノ・IR誘致、うめ北開発など、開発行政を推進しています。新大学は、この開発行政に積極的に参画するというのです。

 これでは、新大学が、維新の行政や民間企業の下請け機関になってしまい、大学の「自主性、自律性」(教育基本法)が損なわれるのではないかと危惧されます。

大学キャンパス−森之宮に都心メインキャンパス(2025年)、中百舌鳥・杉本は集約

 「新大学基本構想」は、「2025年度を目途に都心メインキャンパス(基幹教育と2つの新機能の拠点)を森之宮に整備」「同種分野の工学部、理学部、看護学部については、キャンパスの集約化を優先的に」「森之宮キャンパス整備は、民間活用を検討」としています。

 上山信一特別顧問は、「森之宮地域を民間デベロッパーが開発し、住宅、商業施設といっしょに学舎を建設、大学が入居すればよい」と、森之宮地域開発につなげると公言しました。これでは、新大学キャンパスが、教育・研究にふさわしいものになるでしょうか。民間商業地の開発と引き換えに、学問がないがしろにされてはなりません。

 「全国最大規模の公立総合大学」というのなら、「本部拠点」のキャンパスも、ふさわしい規模の施設、落ち着いた教育・研究の環境、グラウンドや緑地、サークル活動も保障されるなど、ゆとりあるものにすることが求められるのではないでしょうか。

 中百舌鳥、杉本、阿倍野キャンパスは存続しますが、重複する工学部・理学部・看護学部は集約され、余ったキャンパス用地は売却されるのでしょうか。

府大と市大の歴史と伝統、「建学の精神」を受け継ぎ、「大学の自治」を尊重して

 私たちは、両大学の「統廃合」が維新政治のトップダウンで強行されるのを黙って傍観することができず、「統合」中止を求めて運動してきました。大学問題や「統合」問題の学習、卒業生や名誉教授の方々を講師に学習講演会、大学門前での宣伝、大学当局への要請、それぞれ1万筆をこえる「拙速な統合やめて署名」を集めて知事・市長への要請(14年9月)、政府・文科省への要請(16年4月)、府・市議会へ「統合やめて」の陳情・請願、各会派への要請などに取組んできました。

 このたび、「大阪公立大学」が発足したとはいえ、新キャンパスの建設も、両大学の「統廃合」事業も、これから本格的にすすめられます。私たちは、新大学が府大と市大の歴史と伝統、「建学の精神」を受け継ぎ、「大学の自治」を尊重し、新たな前進を開始するよう、今後の動向を注視していきたいと考えます。

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