2023年8月、防衛装備庁が主管する「安全保障技術研究推進制度」について、応募と採択の内容が公表されました。そのうち大阪公立大学の応募とそれが採択されたことが明らかになりました。大阪市立大学時での2件の採択に続くものです。同大学が同制度について連続的に応募し、採択されてきたことに憂慮の声が高まっています。
2024年1月31日、大阪市大・大阪府大の卒業生らは大阪公立大学の学術研究支援部を訪ね、以下の抗議・要請書を手交しました。応対した同部課長は「大学の態度は変わらない」と述べ、回答しないことをほのめかしましたが、私たちは「この抗議・要請は請願権に基づくもの」であると強く回答を求めました。
抗議・要請書
大阪公立大学長
辰巳砂 昌弘様
貴大学の2023年度・防衛省「安全保障技術研究推進制度」への
応募・採択に厳重抗議し、直ちに中止・撤回されるよう要請します
2023年8月、防衛装備庁は23年度の「安全保障技術研究推進制度」の応募・採択状況を公表しました。応募件数は119件で、23件が採択されています。そのうち、大学等の応募は23件であり、5件が採択されており、小規模研究課題(タイプC)に、貴大学(大阪府立大学)の森浩一教授による研究課題「電離圏プラズマを利用する新しい宇宙推進エネルギー工学」(概要:地球低軌道を覆う電離圏プラズマ中で電子プラズマ波を操り、電子ビームを長距離伝送させ、スペースデブリに照射し軌道変換させるというシナリオについて検討を行い、「電離圏プラズマ」を利用する新しい宇宙推進・エネルギー工学を切り拓く)が採択されています。
デュアルユースの名による「安全保障技術研究推進制度」が2015年に開始されて以降、日本学術会議は、「軍事目的のための科学研究を行わない」とする基本姿勢に立ち、同制度への対応のあり方を議論し、2017年3月に「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表しました。声明は「防衛装備庁の『安全保障技術研究推進制度』では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、同局内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い。(中略)研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」と指摘し、「大学等の各研究機関は、(中略)軍事的安全保障研究とみなされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべき」と提言しました。
学術会議声明に応えるように、大学からの「安全保障技術研究推進制度」への応募は、2015年58件(採択4件)、16年23件(採択5件、大阪市大ほか)、17年22件(採択ゼロ)、18年12件(採択3件)、19年は9件(採択3件、大阪市大ほか)、20年9件(採択2件)にまで減少しました。ところが、政権による「軍事国家づくり」への政策転換が推進されるにつれ、同制度への応募は、21年12件(採択5件)、22年11件(採択ゼロ)、そして23年23件(大阪公立大学など4大学・5件が採択)と増加してきています。
重大なことは、2回以上採択されたのは岡山大学、大分大学、豊橋技術大学、熊本大学、そして大阪市立大学の5大学だけであり、今回の大阪公立大学の応募・採択が、前身の大阪市立大学から通算して3度目の応募・採択であることです。「軍事研究」常習化が懸念されます。
私たちは、貴大学の前身である大阪市立大学が2016年、19年と2度にわたり「安全保障技術研究推進制度」に応募・採択された際、軍事研究への応募に抗議するとともに、その中止と撤回を求めてきました。ところが、大阪市大の回答は「『大阪市大における研究者および構成員の行動規範』をふまえ、本学の審査要項にもとづき審査委員会が審査し、『直接的な軍事技術とか防衛装備そのものの研究開発ではない』『正当な理由なく研究成果の公開が制限されない』『知的財産が出た場合は本学に帰属する』『研究資金の提供元から過度な干渉を受けない』『特定秘密の提供をうけない』という5項目の審査基準にもとづき、『研究成果が民生分野での活用を想定した基礎的な研究』として承認した」というものでした。
貴大学(大阪市立大学)の審査制度とは、「直接的な軍事技術や防衛装備そのもの研究開発ではない」などという曖昧な「審査基準」を設け、「審査委員会」が承認しさえすれば、どんな委託研究に応募してもよしとするものなのでしょうか。
私たちは、「研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」という学術会議声明の本旨を棚上げにするやり方を断じて容認できません。大学が軍事研究に加担すれば、教育・研究を歪め、「学問の自由」を脅かす事態につながります。それはまた、かつて「大阪商大事件」を体験した貴大学の反戦・平和、自由・民主主義の歴史と伝統を汚す行為でもあります。
私たちは、貴大学による、3度にわたる防衛省委託研究への応募・採択に対して厳しく抗議するとともに、直ちに受託契約手続きを中止・撤回することを強く求めます。また、「今後、軍事研究は行わない」という立場にたち、審査制度と審査基準を再検討されるよう要請します。
具体的には、次の「4つの質問」に対してご回答いただきますよう要望します。
① この度の応募・採択に対し、どのような審査を行い承認されたのか。
② 貴大学の審査制度と審査委員会の運営方針とメンバー構成について。
③ 防衛省委託研究に学生・院生が参加しているのか、また、学生・院生にどのように説明されているのか。
④ 「軍事研究に加担しない」ことを本旨とする日本学術会議「声明」(2017年)を、どのように受け止めておられるのか。
以上
2024・1・31 軍学共同いらない!市民と科学者の会・大阪
大阪革新懇・日本科学者会議大阪支部・大阪平和委員会