話題の映画「華氏911」を観てきました。大統領選挙を目前にして、現役大統領を痛烈にこき下ろした映画にもかかわらず、アメリカで大ヒット、カンヌ映画祭で特別賞を受賞、と前評判は上々。日本でも大々的な宣伝がおこなわれました。しかし、実際に見てみると、予想に反して地味な映画でした。戦争の意味を問うのに、なかなか笑いをとれるものではありません。ブッシュ大統領を茶化す場面で笑えるところはありましたが、それよりも涙を抑えなければならない場面がいくつもありました。
この映画の最大のポイントは、ムーア監督の故郷・フリント市での取材です。爆撃されていないのに爆撃されたような街。大企業(GM)の撤退で荒廃したこの街の、イラクでの戦死者は4−5人という高比率。監督は失業者であふれる(同市での失業率は青年層で50%という)職業安定所や軍の徴兵係と同行して、軍への応募が若者の大きな可能性を開く道であることを拾っていきます。この取材のなかで、職安に勤める女性に出会います。彼女も「フリント市民にとって軍隊はすばらしい選択」と証言するのです。しかし、彼女の息子はイラクで戦死していた。映画は、息子が軍に応募し、戦死し、その後の母の心境を追っていくのですが−−。
この映画は反ブッシュのプロパガンダだという映画評がありますが、これには賛成できません。ただし、ブッシュ支持の方(日本の総理もそうなんだろうな)は、お金を払って観たい映画ではないでしょうね。スクリーンからは権力者を笑いの種にする一方で、底辺の貧困層・黒人へは温かいまなざしが感じられたのです。こういう姿勢を指してプロパガンダだと批判するのは当たらない。
沖縄国際大学で米軍ヘリの墜落事故が起きました。この原因もわからぬままイラクでの戦争遂行のため、米軍は沖縄から出撃しています。日本が米国の戦争体制に組み込まれ、自衛隊が米軍を補完するためにイラクに送り込まれ、戦争ができる国づくりが企まれている、と言ったら『偏っている』でしょうか。(2004.9)
「権力を笑う」という笑いが少ないのは日本の特徴だろうか。このころから計画があったそうだが、ほとぼりが冷めたとみたのか、オスプレイが持ち込まれてきた。再度「ヒロシマ」を撮れずに亡くなった新藤兼人監督に合掌。(2012.7)