アメリカの住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きによる景気落ち込みが世界的に懸念されています。かつて我が国でも経験したバブルの崩壊を連想させますが、ことは「不動産神話の崩壊の米国版」と片付けられないものだと思っています。この手のことが日本でも形を変えてまた繰り返される可能性があります。
サブプライムローンは低所得者向けの住宅ローンといわれていますが、初期の低金利を餌にローンを組ませ、その後利率が10〜15%にはねあがり、支払いが収入の50%を超えるまでになるものです。こんなローンの販売を可能にしたのは「住宅は必ず値上がりする」という神話をもとに、不法入国者を含む低所得の移民たちに「アメリカでマイホーム」を持てるという甘い言葉でもって勧誘したのです。その多くが英語も十分にわからない人々だったということです。また、カードローン地獄から逃れるためサブプライムローンに借り換えるなど、このローンが「救世主」になりました。このローンの「神話」をさらに支えたのが新自由主義の経済理論です。そもそも高金利の金融商品は富裕な投資家のために必要であったし、「リスクには高金利」という理屈は彼らにとっては絶対の真理なのです。そのリスクを回避するための手法として債権を証券化することを進められてきました。貧困者は結局住宅を取り上げられてテントで暮らし、投機マネーは石油などほかの物件に矛先を変えました。
最近、私は「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未果著・岩波新書)を読みました。この中でサブプライムローンのほかにも医療費負担による破産、学資ローンの返済不能など、米国社会の病理が次々と明かされています。その犠牲者の多くが貧困層であり、その人々をいざなう先が軍隊・戦争であることが語られています。若い貧困層にとってはローン地獄・ワーキングプアという環境から這い上がるには「入隊」という選択肢しか残されていないのです。一定の年齢のものには「民営化された戦争」に参加するしかない。しかし、生きて戦争(イラク)から帰っても心と体を病んでさらに貧困に落ち込んでいくという現実。沖縄の少女暴行事件についても別の側面が見えてきそうです。戦争中毒の国とは同じになりたくない、と思うのです。(2008.3)