10月15日、大阪市大の名誉教授・宮本憲一氏、大阪府大の名誉教授・小林宏至氏が記者会見をし、次の声明を発表しました。この会見には、西谷敏・梶浦恒男両市大名誉教授、三本弘乗元府大教授、森裕之立命館大学教授(市大卒)も同席しました。

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橋下市長の大学自治への介入と府大・市大の拙速な統合を憂慮する 

 

橋下市長の大学自治への介入を憂慮する

  大阪府と大阪市は、10月9日、大阪府立大学と大阪市立大学を統合した新大学を設置・運営する新法人について「新法人基本方針」を発表し、同時に府・市・両大学が策定した「新大学案〜新世代の大学〜大阪モデル」を発表しました。両大学の統合計画を立案してきた大阪府市新大学構想会議(両大学関係者は委員に入っていません)から同日、新大学の「ガバナンス改革について」の提言も出されました。市大・府大統合計画を実行に移す態勢が整ったといえます。しかし、大学自治にかかわる二つの大きな問題があります。

  一つは学長選考のあり方です。新大学では理事長と学長を分離し、理事長は設立団体の長が任命し、学長選考については学外者が多数を占める学長選考会議(学外者が委員長)が行い、「全学意向投票」は廃止するとしています。

  橋下徹大阪市長は、8月9日の記者会見で大阪市大の学長選考における教職員の意向投票について「学長を選ぶのに何の権限もない教職員が一票を投じるなんてふざけたことを言ってきた、まかりならんと突き返した」と、意向投票があたかも不法、不当なものであるかのように攻撃し、制度の見直しを指示していましたが、市長の意向を反映した方針が出されたことになります。

  学長選考における意向投票は、大阪市大の定款及び理事長選考規程に基づいて大学内の意向を調査するためのものであって、何ら不法なものではなく、国立大学でこれを実施している大学も多く、市長の発言は一般市民に誤解を与えかねないきわめて悪意のある発言です。大学が国民から付託された使命を果たすためには、教職員の高度の自発性と深い責任の自覚が不可欠であり、適切な意向投票がそれに寄与することは疑いありません。

  もう一つは、新大学における教授会のあり方です。教授会は、学校教育法で「大学には、重要事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と定められています。大学運営の要をなす組織です。ところが橋下市長は10月9日の会見で「人事に教授会がしゃしゃり出るというばかげたやり方は認めない」と強調しました。現在、大阪市大では研究科長は研究科教授会で選ばれていますが、新大学ではこの選出方法をやめ、部局長(研究院長等)の推薦する複数の候補者から学長が選考し、理事長が任命するとしています。また、現在教授会がおこなっている教員人事は、学長のもとに人事委員会を設置し、人事を一元化するとしています。新大学では教授会の人事権が奪われ、大学自治を担う基本組織が弱体化することが懸念されます。

  大阪市は、2016(平成28)年の新大学設立に向け、まず今秋、大阪市大の現「定款」を変更して理事長と学長を分離し、意向投票を廃止した新選考規程によって次期学長選考を実施しようとしています。大阪市大はいま重大な岐路に立たされているといわなければなりません。

  大阪市大は、近代大阪の骨格をつくった大阪市長・関一の絶大な努力によって創設された大阪商科大学の自由の学風をうけついで、戦後、他の市立高等教育機関と合わせて日本最大の公立総合大学として創設されました。学長選考問題に留まらず、市大で長年にわたって築きあげられてきた学問の自由と大学自治の伝統がいま根底から脅かされているのではないでしょうか。市大で起こっている事態は大阪府大にも深くかかわる問題です。

  大学の自治は、憲法23条の「学問の自由は、これを保障する」という規定に基づく大学存立の大原則です。これは、日本の大学が戦前、京大滝川事件など国家権力の弾圧でその使命を十分果たせなかったことに対する痛切な反省に基づいて生まれた規定です。大学自身がたえず厳しく自己を省みることは当然ですが、大学をめぐる環境が変化するなかでも、大学の自治はその真価を発揮させていくべき普遍的原理です。橋下市長は、世界と日本の歴史が生みだした学問の自由と大学自治という普遍的価値をまったく理解していないと言わなければなりません。

府大・市大の拙速な統合を憂慮する

  大学には独自の建学の精神と伝統があり、専門分野も独自に発展を遂げてきました。大阪市長・関一は、商科大学設立にあたって、「国立大学のコッピーであってはならない」、「大阪市立大学は、大阪市を背景とした学問の創造が無ければならない。この学問の創造が、学生、出身者、市民を通じて、大阪の文化、経済、社会生活の真髄となっていくときに、設立の意義を全くする」と述べました。この理念は日本の公立大学の歴史における輝かしい歴史的達成であり、戦後の新制大阪市大にも発展的にうけつがれ、いまも2010年の「大阪市立大学憲章」などにその発展した内容を見ることができます。府立大学にもまた、独自の建学理念と大阪に根ざした個性的な歴史があります。しかし、今回の「新大学案」では、かつてない「改革」に立ち向かうために想起すべき両大学の歴史と自由の伝統、それに基づく個性的かつ普遍的な大学の理念が生き生きと伝わってこない憾(うら)みがあります。

  大学の統合はそれぞれの大学の内発的要求が合致し、財政的保障が十分なされなければ難しいと言わなければなりません。現在は予算削減が先行し、「新大学案」においても「新法人」への府・市の財政的支援方針の策定は次年度以降にまわされています。優れた人材が大学を去る事態さえ起こりかねないと懸念します。高度の有機的な研究教育機関である二大学の統合計画をこのまま進めるというのはあまりに拙速と言わざるをえません。

  府大・市大の統合問題は、大阪府民・市民にとってもきわめて重大な問題です。府民・市民にとって、比較的安い授業料で自宅から通える二つの公立総合大学があることは大きな意味があります。

  橋下市長は、府内に府大・市大が存在するのは「二重行政」であり、あわせて2百億円の運営交付金は府民・市民の過重負担だと批判してきました。しかし、公立大学設置自治体には総務省助成交付金があるため、2008年度でみると、府と市の運営交付金240億円の約8割(190億円)は国から助成され、府と市の純経費(持ち出し)はあわせて約42億円にとどまります。橋下市長の発言は、国の助成を無視した妥当性を欠く発言です。ちなみに、府立大学の学生一人あたり純府経費は11万7千円で、2010年度に始まった高校授業料無償化額11万8800円と同水準です。二大学統合の結果、子や孫の学ぶ場が今までどおり保障されるかどうかに府民・市民は大きな関心をもたざるをえません。橋下市長は統合の目的を「大阪の成長戦略への貢献」においていますが、大阪の知的・文化的拠点である公立二大学の統合は、より総合的な府民・市民の立場から慎重に検討されなければなりません。今年3月の大阪市議会財政総務委員会では、「市立大学と府立大学の拙速な統合撤回を求める陳情書」が賛成多数で採択されましたが、当然の市民の声といわなければなりません。

  私たちは、「新法人基本方針」や「新大学案」が発表されたこの機会に、両大学の内部で徹底的な討論が起こることを期待します。私たち、両大学の元教員や卒業生なども、この機会に学内の皆さんとともに、大阪府民や市民の意見も尊重しながら、両大学の将来のあり方を真剣に考えたいと思います。その立場から、橋下市長の大学自治への介入と統合計画の拙速な推進を深く憂慮することを表明いたします。

  2013年10月15日

   大阪府立大学と大阪市立大学の統合問題を考える懇談会

      世話人 (○印は代表世話人)

        東 恒雄(大阪市立大学名誉教授)

        飯田 武(大阪市立大学名誉教授)

        石神正浩(大阪府立大学名誉教授)

        今井嘉郎(元大阪府立大学教授)

        上田悦範(元大阪府立大学教授)

        甲斐道太郎(大阪市立大学名誉教授)

        川崎東彦(大阪府立大学名誉教授)

        鬼追明夫(元日本弁護士連合会会長・大阪市立大学卒業)

       ○ 小林宏至(大阪府立大学名誉教授)

        梶浦恒男(大阪市立大学名誉教授)

        木津川計(「上方芸能」発行人・大阪市立大学卒業)

        澤田進一(大阪府立大学名誉教授)

        高森康彦(大阪府立大学名誉教授)

        直木孝次郎(大阪市立大学名誉教授)

        西谷 敏(大阪市立大学名誉教授)

        穂波信雄(大阪府立大学名誉教授)

        増田繁夫(大阪市立大学名誉教授)

        溝川悠介(大阪府立大学名誉教授)

        三本弘乗(元大阪府立大学教授)

       ○ 宮本憲一(大阪市立大学名誉教授・滋賀大学名誉教授)

        和田野晃(大阪府立大学名誉教授)

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