事業を立ち上げいろいろな人との取引を始めるにあたって、相手の信用を十分に調べ上げることは難しいものです。最近は、ネットという便利なツールがあって、検索すれば見知らぬ人についていくらかを知ることもできるようになりました。わたしも、このHP上でできるだけ自己をさらして「よい出会い」を求めているわけです。しかし、事業というものは必ずリスクを伴うもの。お金の貸し借り、モノの出来不出来、裏切り、など紛争の種はつきません。また、悪意はなくとも結果的にお金が払えない、というトラブルはつきものです。
駆け出し税理士たる私も、この2年間ほどでこうしたトラブルをかかえて裁判所に提訴をするという事態を3件経験しました。いずれも顧問見込み先紹介に関する契約の不履行、というもので、よくも3つも引っかかったなあとあきれる方もあるでしょう。実際このうち2件は初めから「だまし」を意図したものと言わざるを得ないものでした。弁解をさせていただくとすると、最初の事件で少額訴訟を経験し、わずかの回収と解決をともかく見たことで、あえてリスクをとるハードルを下げることができたのです。
少額訴訟とは、争う金額が60万円以下で原則は一回限りの審理で判決されるというものです。簡易裁判所で審理されます。私の場合は、最初の事件を被告が不出廷で原告(私)の要求通りの判決、あとの2件は和解に応じて要求額をいくらか減額し、かつ分割で解決しました。
メリット1 逃げ回る相手を取り押さえて解決できる
トラブルが起こったときまず困るのは相手と連絡が取れなくなる、ということではないでしょうか。電話やメールをしても解決を先延ばしにする、責任者(社長)が出てこない、挙句の果てに連絡が一切取れなくなる、ということ。
相手が個人で転居して住所もわからないとなっても、訴状の控えがあれば市役所で住民票を取り寄せることができます。また、社員にばかり対応させて埒のあかない会社のトップを法廷に引っ張り出すことも可能です。
結果として回収金額が少なくとも事件の解決は仕事の上でも一区切りをつけることができます。
メリット2 訴状の提出も簡単、短期間で裁判
訴状を簡易裁判所に持ち込むと、裁判所の書記官に簡単な事情を聴かれたのち、相手方に訴状が送達され日程が決まります。裁判はだいたい一月後に設定されます。訴状の書き方は裁判所のHPにも掲載されていますし、訴状の提出窓口で普段は聞きなれない法律用語に直してくれます。ただし、あくまで公平な立場で、どちらかに肩入れをするようなアドバイスはありませんが、裁判所の対応はスピーディーな事件処理に苦心しているという印象を受けました。
デメリット1 全額の回収は事実上困難
仮に全面勝訴の判決を勝ち取れても、差押えなどして回収するのは困難です。強制執行の申し立ては、別に行わなければなりませんし、相手の財産があるのかないのか、どこにあるのかは自分で調べなければなりません。和解が成立しても、和解の内容通りに相手が実行しないときは、強制執行の申し立てをしなければなりません。さらに相手に資力がなければ回収できません。
デメリット2 裁判は公開される
少額訴訟でも裁判は公開されます。私も「予行演習」で何件か傍聴させてもらいました。相手と裁判中は面と向かうわけですが、開廷前の待ち時間に相手と隣り合わせにベンチに座るのは嫌でしたね。ただし、和解協議の経過については公開されません。
「60万円以下」の訴訟というと、商品の販売代金などとすると金額があまりに少ないため、時間と手間、気持ちを裁判に費やせるか、「解決」という安心とのはかりにかけてみてください。