今から20数年前の年末、私と同期でもある経理担当の女性から2枚(たぶん)の緑色で刷られた書類をもらいました。それが年末調整の被扶養者異動届などであったのですが、彼女にとっても初めてのことで、説明を受けた覚えもありません。私は、保険にも入ってなく、扶養家族があるわけでもなく、「ここに名前書いて、はんこ押して」と、いわれるままにその場で渡したように思います。今から思えば、小さな印刷会社の経理の水準はしれたもので、税金・社会保険などで少し損をしてきたのかもしれません。
給与所得者の所得税の納税義務者は税法上給与を支払う側、つまり会社ということになっています。年末調整は、この源泉徴収の精算事務で、徴収される側の申告(しかし、納税の申告ではありません)に基づいて、会社が納める所得税を精算し、確定します。毎月毎月、税務署になり代わって給料から所得税を天引きして国に納め、なお年に一度従業員について何から何まで調べ上げて一年間の所得税額を確定して精算するという事務を押し付けられて何の見返りもありません。このような割りの悪い仕事を文句も言わずにやっている日本の会社というものは、ちょっと変ではないですか。
天引きされる方もされるほうで、税金の使い道など文句たらたらなのに「私は税金××円払っています」と胸張って言えるサラリーマンはどれだけいるでしょうか。仮に、税金を天引きされることなく、みずから計算して納めるということになれば、たぶん、日本の政治も大きく変わるでしょう。
もともと、年末調整という制度自体が欠陥だらけの制度で、年も変わっていないのに配偶者や子供の所得を記入させたり、生年月日はもとより「障害者」「寡婦」「寡夫」「特別の寡婦」、扶養・被扶養の関係など、赤の他人にプライベートな事項を書かせるとは、まったく理不尽な制度です。個人情報の保護が叫ばれている今日、守秘義務のない経理課員・経営者にこのような権限を与えてもよいものでしょうか。
年末調整は廃止して、給与所得者にも申告納税の権利を与えるべきだと思います。(2002.12)